戦国時代(1467年~1590年)の髪型は、身分、性別、年齢、職業、宗教的な背景によって多様であり、文化や社会的役割を反映するものでした。特に武士にとって髪型は自らの身分や威厳を示す重要な要素であり、また女性や庶民にとっても生活や価値観を象徴するものでした。以下に、戦国時代の髪型を男性・女性・子供・僧侶などの観点から詳しく解説し、具体例を挙げて説明します。


1. 戦国時代の男性の髪型

1.1 武士の髪型

戦国時代の武士の髪型は、戦場での実用性と身分を示す象徴的な意味がありました。

(1) 髷(まげ)

  • 髷は、戦国武士の象徴的な髪型で、頭頂部を剃り上げ、後ろ髪を束ねて結ったものです。
  • 髪型には実用性もあり、兜をかぶる際に熱を逃がしやすくするための工夫とされています。
実例: 武士の髪型の種類
  1. 本多髷(ほんだまげ)
    武士の間でよく見られる髷で、頭頂部を剃り上げ、後頭部に短くまとめたもの。特に若い武士に多かった。
  2. 月代(さかやき)
    頭頂部を広範囲に剃り上げた髪型で、戦国時代の典型的な武士の姿。月代の剃り方の広さや形は、個人や地域によって異なりました。
  3. 兜結い(かぶとゆい)
    兜をかぶる際に髷が邪魔にならないよう、後ろ髪をまとめて結ったもの。戦場で一般的に使われた。

(2) 剃髪(ていはつ)

  • 武士が出家する際に髪を全て剃り落とす髪型。戦場で戦死を覚悟した際にも剃髪することがありました。
  • 例: 織田信長が幼少期に寺院で過ごしていた際、剃髪していたと伝えられています。

1.2 商人・職人の髪型

戦国時代の商人や職人の髪型は、身分を象徴しつつも武士ほど形式的ではありませんでした。

(1) 丸髷(まるまげ)

  • 商人や職人は、頭頂部を剃り上げずに髪を自然に結い上げた丸髷をしていました。武士よりも自由な髪型が許されていました。

(2) 束髪(そくはつ)

  • 束髪は髪を自然に束ねた簡素な髪型で、商人や職人、農民の間で広く使われました。

2. 戦国時代の女性の髪型

2.1 貴族や上流階級の女性

戦国時代の女性の髪型は、婚姻の有無や年齢によって異なりました。

(1) 未婚女性の髪型

  • 未婚女性は、髪を長く伸ばして「垂髪(たらしがみ)」とするのが一般的でした。これは貴族文化の名残であり、美しさや純粋さを象徴していました。
  • 例: 織田信長の妹・お市の方は、若い頃に垂髪をしていたとされます。

(2) 既婚女性の髪型

  • 既婚女性は「結髪(ゆいがみ)」と呼ばれる髪型を結うのが一般的でした。
  • 丸髷や立髷(たてまげ)は、既婚女性の地位や成熟を示す髪型として広く知られていました。

2.2 農民や庶民の女性

農民や庶民の女性は、日常生活で活動的で簡単に手入れできる髪型を選びました。

(1) 束髪

  • 束髪は髪を束ねただけの簡素な髪型で、農作業や家事を行う際に便利でした。

(2) 後れ髪(おくれがみ)

  • 髪を一部後ろに流した髪型で、農村の若い女性によく見られたスタイルです。

3. 戦国時代の子供の髪型

戦国時代の子供の髪型は、成長過程や宗教儀式と密接に結びついていました。

(1) 髪を剃らない

  • 幼少期の子供は髪を剃らず、自然に伸ばしていたことが多かった。

(2) 初髷(ういまげ)

  • 初髷は、子供が成長して初めて髷を結う儀式的な髪型。元服(げんぷく)などの通過儀礼において重要でした。

(3) 剃髪

  • 幼少期に寺院に入る場合、子供も剃髪することがありました。
  • 例: 豊臣秀吉の幼少期には寺院での生活があり、剃髪していた記録があります。

4. 僧侶や信仰に基づく髪型

僧侶や修験者など、宗教的な背景を持つ人々の髪型は、彼らの信仰や役割を反映していました。

(1) 剃髪

  • 僧侶は頭髪を全て剃り落とし、清浄を象徴する剃髪を行いました。
  • 戦国時代には多くの武士が仏教徒であり、僧侶として剃髪する例が多く見られます。

(2) 半剃り

  • 修験者や行者は、一部を剃る「半剃り」の髪型をしている場合もありました。

5. 髪型と戦場での工夫

戦国時代の戦場では、髪型が戦闘の実用性にも大きな影響を与えました。

5.1 髪型の防御機能

  • 武士の髷や月代は、兜をかぶった際に汗を逃がしやすくし、戦闘時の快適さを保つ役割がありました。

5.2 特殊な結髪法

  • 特定の大名や軍勢では、戦場での士気を高めるために独自の髪型を採用することがありました。

6. 戦国時代の髪型が持つ社会的意味

6.1 身分の象徴

  • 髪型は身分や職業、社会的地位を示す重要な手段でした。

6.2 美意識の表現

  • 特に女性の髪型は、当時の美意識や文化を象徴するものであり、婚礼や儀式で特別な髪型が施されることがありました。

結論

戦国時代の髪型は、社会的地位や役割、美意識、実用性を反映したものでした。武士や僧侶、女性、子供、庶民それぞれに特徴的な髪型があり、戦場や日常生活、儀式など、さまざまな場面で重要な役割を果たしていました。このような髪型文化は、日本の歴史や価値観を理解する上で欠かせない要素といえます。