戦国時代(1467年の応仁の乱から1603年の江戸幕府成立まで)は、戦が日常的に行われていたため、武具や鎧(よろい)の技術が大きく発展した時期です。この時代の鎧は、防御力を高めると同時に、機動性や使いやすさを重視して改良され、特に「実戦的な鎧」が求められました。戦国時代の鎧はさまざまな種類があり、地域や階級によって異なる特徴を持ちます。以下では、戦国時代に使われた代表的な鎧の種類、構造、進化、そして戦国大名たちによる独自の工夫について詳しく解説します。
目次
1. 戦国時代の鎧の種類とその進化
![](https://sengoku.club/wp-content/uploads/2025/02/image_fx_-2025-02-09T225733.869-1-1024x559.png)
戦国時代には、主に以下の種類の鎧が使用されていましたが、それぞれの進化と用途が戦場の状況に合わせて異なります。
(1) 大鎧(おおよろい)
- 概要: 大鎧は平安時代から室町時代初期にかけて主に使用され、もともとは騎馬武士のために設計された重厚な鎧です。
- 構造: 胴の部分(胴丸)、肩当て(肩鎧)、草摺(すねや腰を守る部分)などが組み合わさり、鉄板や革を紐で繋いで構成されています。
- 特徴: 豪華な装飾が施されており、名家の家紋や武士の地位を示す文様が入ることが多いです。
- 戦国時代での使用: 大鎧は戦国時代に入ると重すぎて機動性に欠けるため、次第に実戦用としては使われなくなります。しかし、儀礼用や儀式用として一部の大名たちに用いられることがありました。
(2) 胴丸(どうまる)
- 概要: 胴丸は平安時代末期から使用され、鎌倉時代には大鎧に代わる実戦的な鎧として活躍しました。戦国時代でも一部の武将が使用しましたが、やがて「当世具足」に取って代わられます。
- 構造: 大鎧よりも軽量で、胴を覆う部分が柔軟に作られ、動きやすくなっています。革や鉄板を編み合わせているため、一定の防御力もあります。
- 特徴: 大鎧よりも簡素なデザインですが、防御力と機動性のバランスが良く、歩兵や軽装の武士によく使われました。
(3) 当世具足(とうせいぐそく)
- 概要: 当世具足は戦国時代中期から後期にかけて登場した新しい形式の鎧で、戦国時代の代表的な鎧です。「新しい世代の鎧」という意味を持ち、特に鉄砲が普及したことによる戦術の変化に適応しています。
- 構造: 胴の部分に鉄板や鉄箔を使用し、肩や腕、すねなどをカバーする部位も効率的に保護されています。また、顔を守るために「頬当て」や「面頬(めんぽう)」などの装具が追加されることもあります。
- 特徴: 実戦重視のデザインで、鉄砲による攻撃を意識して鉄板を厚くしたものも多いです。また、華やかな装飾が施されることもあり、特に戦国大名の具足は美術的な価値も高いです。
- 代表例:
- 伊達政宗の黒漆五枚胴具足
黒漆で仕上げられた実戦用の具足で、シンプルながらも戦場での機能性を重視しています。 - 徳川家康の金箔押し具足
豪華な金箔装飾が施されており、儀礼や威厳を示す場面でも使用されました。
- 伊達政宗の黒漆五枚胴具足
(4) 甲冑のパーツ(防具)
鎧の各部位は防御と機動性を両立させるため、細かく分かれており、以下のようなパーツが組み合わされます:
- 胴(どう): 胴体を守る中心部分で、鉄板や革が使用され、外部の攻撃を防ぎます。
- 肩鎧(かたよろい): 肩を保護するための部分で、戦闘中の矢や槍から肩を守る重要な役割を果たします。
- 草摺(くさずり): 腰から太ももを覆う部分で、重ねた小さな鉄板や革を用いています。
- 籠手(こて): 腕全体を守る装具で、鉄板が布地や革に取り付けられています。
- 臑当(すねあて): すねを守る部分で、主に歩兵にとって重要な防具です。
- 兜(かぶと): 頭部を守るための装具で、特徴的な装飾を持つものも多く、戦国時代の兜は大名ごとのデザインで個性がありました。
2. 戦国時代の兜のデザインと進化
戦国時代の兜は単に頭部を守るだけでなく、大名や武士のアイデンティティや権威を示す象徴としての役割も果たしていました。特に「前立(まえだて)」と呼ばれる装飾部分に特徴が見られます。
- 前立兜: 兜の前面に取り付けられた装飾で、家紋や動物、植物、神話のシンボルなどが用いられました。
- 伊達政宗の三日月兜: 有名な「三日月」の前立が付いた兜で、政宗の象徴となっています。
- 真田幸村の鹿角兜: 鹿の角のような形状の前立が特徴で、戦場で非常に目立つデザインでした。
- 鉄砲の普及による変化: 戦国後期になると、鉄砲による被弾を防ぐために兜の鉄板が厚くなり、より実戦向きの設計が増えました。
3. 戦国時代の鎧の素材と製作技術
● 素材
- 鉄板: 鎧の主要な部分には、鉄板が使用されました。鉄板を薄くしつつも強度を保つ技術が進化しました。
- 革(かわ): 鉄板の上に革を張り付けて補強することがありました。また、革紐を使って鎧の各部分を繋ぎ合わせる重要な素材です。
- 絹(きぬ)や漆(うるし): 美しい装飾を施すために絹の紐や漆塗りが用いられ、鎧に光沢や防水性を持たせました。
● 製作技術
鎧の製作には高い技術が必要で、各地域には「甲冑師(かっちゅうし)」と呼ばれる専門の職人がいました。甲冑師たちは各戦国大名の注文に応じてカスタマイズされた鎧を作り上げました。
4. 戦国時代の鎧の象徴的な使用例
- 織田信長の黒備え: 織田軍の中でも「黒備え」として知られる部隊は、真っ黒な具足と兜を装備し、戦場で敵に対する威圧感を与えました。
- 武田信玄の赤備え: 武田家は赤を基調とした具足を使用し、武士としての威厳を示しました。
5. 戦国時代の鎧と戦術の関係
- 鉄砲隊の登場: 鉄砲の普及に伴い、鎧はより鉄砲弾に耐えられるよう改良されました。特に、胴の部分に厚い鉄板を追加する具足が増えました。
- 集団戦術への対応: 戦国時代後期には集団戦術が主流となり、軽装備で機動力を重視する歩兵向けの鎧も増加しました。
まとめ
戦国時代の鎧は、単なる防具としての機能を超え、武士のアイデンティティや戦国大名の権力を象徴する重要な存在でした。時代が進むにつれて、防御力、機動性、そして美しさのバランスが取れた「当世具足」が戦場で主流となり、後の江戸時代の鎧文化へとつながっていきました。また、戦国時代の鎧に見られる革新は、戦場における日本の軍事的な適応能力と技術力の高さを象徴しています。
![](https://sengoku.club/wp-content/uploads/2025/02/image_fx_-2025-02-09T225742.404-1024x559.png)
![](https://sengoku.club/wp-content/uploads/2025/02/image_fx_-2025-02-09T225305.620-1024x559.png)
![](https://sengoku.club/wp-content/uploads/2025/02/image_fx_-2025-02-09T225748.773-1024x559.png)