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国宝の天目茶碗(てんもくちゃわん)
天目茶碗は、中国・宋時代に生まれた茶碗で、日本の茶道において特に珍重され、国宝にも指定されている非常に価値の高い逸品です。天目茶碗は中国の福建省や浙江省などで生産され、日本へは鎌倉時代から室町時代にかけて輸入されました。その独特な釉薬の美しさと光の反射による模様が特徴で、現存するものの中には、世界的に見ても非常に希少なものが多く、日本で大切に保存されています。
ここでは天目茶碗の歴史、特徴、国宝として知られる天目茶碗の実例について詳しく解説します。
1. 天目茶碗とは?
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● 名称の由来
天目茶碗という名称は、**「天目山(てんもくざん)」**に由来します。天目山は中国浙江省にある禅宗の名刹がある場所であり、そこを訪れた日本の僧侶が持ち帰った茶碗が「天目」と呼ばれるようになったとされています。そのため、天目茶碗は当初、禅宗と深く結びついたものでした。
● 釉薬の技法と特徴
天目茶碗の最大の魅力は、その表面に現れる美しい釉薬の効果にあります。中国で焼かれた天目茶碗の釉薬には、特定の温度と条件下で焼成することで偶然に生じる模様や輝きが特徴的です。
- 鉄釉(てつゆ): 黒釉とも呼ばれ、茶碗全体に深い黒色や暗い青色が施されています。
- 光沢と反射: 光の角度によって表面にさまざまな模様が浮かび上がり、これが天目茶碗を特に魅力的なものとしています。
- 釉薬の斑点模様: 代表的なものに「油滴天目」や「曜変天目」などがあります。
2. 天目茶碗の種類と分類
天目茶碗には、その表面に現れる模様や焼成方法によっていくつかの種類があり、以下のように分類されます。
(1) 黒天目(こくてんもく)
- 黒い鉄釉をかけたシンプルな茶碗で、表面は光沢のある漆黒の色合いを呈しています。余計な装飾がないため、禅宗の簡素な美意識に通じるとされます。
- 日本の茶道では侘び寂びの精神と結びつき、黒天目の茶碗は特に重宝されました。
(2) 油滴天目(ゆてきてんもく)
- 表面に銀色または金色の斑点(油の滴のような模様)が浮かび上がるのが特徴です。これは焼成時に釉薬が変化することで偶然に生じるもので、非常に高い美的価値があります。
(3) 曜変天目(ようへんてんもく)
- 天目茶碗の中でも最も珍重される種類で、表面に虹色の斑紋や光の環のような模様が現れるのが特徴です。光の角度によって青や紫、赤などが複雑に変化する様子はまさに「曜変(光が変化する)」と呼ばれるにふさわしいものです。
- 曜変天目は現存するものが極めて少なく、日本国内に3点しか確認されておらず、いずれも国宝に指定されています。
3. 日本における天目茶碗の価値と茶道との関係
日本では、鎌倉時代から室町時代にかけて天目茶碗が中国から輸入されました。当時、天目茶碗は**「唐物(からもの)」**と呼ばれ、非常に貴重な茶道具とされました。特に、室町幕府の足利将軍家は、唐物の茶器を収集することに熱心で、天目茶碗もその中に含まれていました。
その後、千利休によって侘び茶の精神が広まり、天目茶碗はその簡素な美しさが侘び寂びに合致するとして、さらに重宝されるようになりました。
4. 国宝に指定されている天目茶碗の実例
日本には現在、国宝に指定されている曜変天目茶碗が3点存在します。これらはどれも中国・宋時代に作られたもので、日本に現存するものは世界的に見ても非常に貴重です。
● 藤田美術館所蔵(大阪府)
- 特徴: 表面に青や紫、虹色の斑点が広がる曜変模様が美しく浮かび上がる一品で、世界でも最高峰の天目茶碗の一つとされています。
- 状態: 保存状態が非常に良好で、釉薬の光の反射による変化が極めて美しいと評価されています。
● 静嘉堂文庫美術館所蔵(東京都)
- 特徴: 青い光が放射状に広がり、光の環のような模様が特徴的な曜変天目です。表面の釉薬が非常に滑らかで、斑点の輝きが見る角度によって変化します。
- 由来: 明治時代に岩崎家(岩崎弥之助)によって収集され、現在も美術館で公開されています。
● 大徳寺龍光院所蔵(京都府)
- 特徴: 表面の光沢と虹色の反射が、神秘的な美しさを持つ曜変天目です。特に斑点模様の均一性が高く、曜変天目の中でも最高級とされます。
- 由来: 室町時代に足利将軍家によって所蔵されていた可能性が高いとされています。
5. 天目茶碗の希少性と現在の評価
- 現存する曜変天目は世界で4点(日本に3点、中国に1点)しか確認されておらず、その希少性から「奇跡の茶碗」とも称されます。
- 美術市場での高い評価: 2016年には、中国のオークションで1つの天目茶碗が約10億円で落札されるなど、その価値は非常に高いものです。
6. 天目茶碗の現代的な意義
天目茶碗は、茶道における重要な美意識を伝えるだけでなく、東アジアの陶磁器文化の発展における象徴ともいえます。現在では、国宝級の天目茶碗が博物館や美術館で公開され、多くの人々がその美しさに魅了されています。
まとめ
天目茶碗は、釉薬の奇跡的な美しさと光の変化によって、単なる茶器以上の芸術作品として高く評価されています。特に日本に現存する国宝の曜変天目茶碗は、世界的に見ても希少であり、日本の美術史の中で重要な位置を占めています。千利休が求めた侘び寂びの精神とも結びつき、現代でも茶道愛好家や美術ファンにとって憧れの存在です。
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