戦国時代の人々も現代のような歯ブラシや歯磨き粉はありませんでしたが、口腔衛生を保つための独自の方法が存在していました。歯の健康は生活の質に直結するため、シンプルながらも実践されていた歯磨きの習慣について説明します。


1. 戦国時代の歯磨きの方法

1.1 矢作(やはぎ)

  • 矢作とは、植物の小枝を噛んで繊維をほぐし、歯を磨く方法です。
  • 材料: 柳、楊(ヤナギ)などの柔らかい木の枝が使われました。
  • 噛むことで繊維がほぐれて歯の隙間を掃除する効果がありました。

1.2 塩や灰

  • 歯を磨く際に、塩や木灰を利用することがありました。
    • : 歯茎を引き締める効果が期待されていました。
    • 木灰: 弱アルカリ性で、歯の汚れを落とすと考えられていました。
  • 小枝や指に塩や灰を付けて歯をこする方法が一般的でした。

2. 口腔ケアのための習慣

2.1 うがい

  • 戦国時代の人々は食後や寝る前に水やお茶でうがいをして口の中をすすいでいました。
  • : 茶葉に含まれるカテキンには殺菌効果があり、虫歯や口臭予防に役立ったとされています。

2.2 噛む習慣

  • 繊維質の多い食べ物(例えば根菜類や干物)を噛むことで、自然と歯の表面が磨かれる効果がありました。

3. 歯の病気と対処法

3.1 虫歯や歯周病

  • 戦国時代の食事は現代のように糖分が多くなかったため、虫歯の発生率は比較的低かったと考えられています。
  • しかし、塩分の多い食事や保存食品の摂取、歯磨きの技術不足から、歯周病や歯の摩耗は一般的でした。

3.2 歯痛の治療

  • 歯痛や歯茎の腫れが起きた場合、以下のような民間療法が行われました:
    • 薬草の利用: よもぎや当帰(とうき)を噛む、または煎じて口に含む。
    • 灸(きゅう): 虫歯や歯痛に対してツボに灸を据える治療法も行われました。

4. 武士と口腔ケア

  • 武士にとって、見た目や身だしなみも重要であったため、歯を清潔に保つことに気を使っていました。
  • 特に身分の高い武士は、矢作や塩を使った歯磨きを積極的に行っていたと考えられます。

5. 歯の色の美意識

  • 戦国時代の後期には、特に女性の間で「お歯黒(おはぐろ)」と呼ばれる習慣が広まりました。
    • 鉄や酢を混ぜた液体で歯を黒く染めることで、既婚女性や成人の証とされ、虫歯予防の効果もあったといわれています。
    • 戦国時代の男性武士にもお歯黒の習慣が見られ、身分を示す一環として行われていました。

6. 戦国時代の歯磨きの限界

  • 戦国時代の歯磨きはあくまで簡易的なもので、現代のように虫歯や歯周病を完全に防ぐことは困難でした。
  • 定期的な歯のケアや医療的な治療は限られており、歯の寿命は現代人よりも短かったとされています。

まとめ

戦国時代の人々は、矢作や塩、灰などを使って歯を磨くことで口腔ケアを行っていました。技術や道具は現代ほど発展していませんでしたが、自然素材を利用した歯磨きやうがいの習慣、食事からくる自然なケアによって、ある程度の口腔衛生が保たれていました。また、虫歯予防や身分を示す目的で「お歯黒」が行われたことも特徴的です。